飽和潜水の原理と課題とは?手順とともにご紹介します。

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飽和潜水とは、人が深海に潜るための技術のひとつです。
通常、酸素ボンベを背負ったダイビングでは、水深数メートルのところまでで精一杯でしょう。
しかし、飽和潜水の技術を使えば最大で400m以上の潜水が可能です。
そこで、今回は飽和潜水の原理や課題をご紹介します。
どんな技術を使えば、人の体が水圧に耐えて100m以上も潜れるようになるのでしょうか?
答えは、この記事を読めばわかります。
潜水士を目指している方もぜひこの記事を読んでみてくださいね。

  1. 飽和潜水とはどのような技術?
  2. 飽和潜水の手順とは?
  3. 飽和潜水の課題とは?
  4. おわり

1.飽和潜水とはどのような技術?

飽和潜水とは、人の体を深海の圧力に耐えられるように処置をしてから潜水を行う技術です。
飽和潜水を行えば、100m以上の深海でも安全に長時間作業ができます。
では、飽和潜水とはどのような技術なのでしょうか?
まずはその原理をご説明します。
人間の体の中には、いろいろな気体が溶けこんでいるのです。
潜水をすると、気圧よりも圧力の高い水圧が人体にかかります。
すると、窒素などの気体が体の組織に地上にいるときよりも多く溶けこんでいくのです。
また、浮上をしていくと今度は水圧が減少していきますから、組織内に溶けこんでいた気体は、血管中などに排出されて体外で出ていきます。これがスムーズに行われていれば問題はありません。
しかし、体調が悪かったり深海から海面まで急激に浮上したりすると、血管内に気体が気泡となって現れることもあるでしょう。
すると、それが塞栓(そくせん)となり、血管を破いてしまうこともあります。
これが、「減圧症(潜水病)」といわれる症状です。
深海に潜るほど、体組織に溶けこんだり再び排出されたりする気体の量は多くなり、減圧症を発症するリスクは高まります。
しかし、体組織に溶けこめる気体の量には限りがあるのです。
そのため、あらかじめ地上で加圧を行って体組織に飽和状態まで気体を取りこませておけば、潜水効率も安全性も高まります。
これが飽和潜水の原理です。
ちなみに、深く潜水するほど加圧と減圧に時間がかかります。
たとえば、水深40mまで潜るのには2時間以上かかり、作業できる時間は数十分です。
しかし、飽和潜水を行えば数分で潜水でき作業時間をその分長くできます。
これを「潜水効率がよい」といい、飽和潜水の大きなメリットです。
一般のダイビングは酸素ボンベを背負っただけで水中に入りますが、飽和潜水を行う際は、特殊な再圧タンクの中に入って水中と地上を行き来します。

2.飽和潜水の手順とは?

この項では、実際に飽和潜水を行う手順についてご紹介します。
どうやって飽和状態のまま潜水を行うのでしょうか?
また、飽和潜水に対して一般的な潜水のことを空気潜水といいますが、その違いについても説明します。

2-1.潜水準備

飽和潜水と空気潜水の大きな違いは、潜水前に行う加圧です。
加圧は、専用の部屋で時間をかけて行います。
地上では人体におおよそ1気圧の圧力がかかっていますが、加圧室ではまず2気圧をかけてダイバーの様子を見るのです。
ちなみに、飽和潜水は安全のため必ず複数人で行います。
2気圧をかけて問題がないようでしたら、加圧室の中にヘリウムと酸素を混ぜた混合ガスを流し、呼吸ガスを切り替えて体内を飽和状態にしていくのです。
それと同時に十数時間かけて圧力をあげて、潜水する深水付近の圧力と同じくらいに加圧します。
100m以上潜水する場合は加圧に数日かかることもあるため、ダイバーたちは加圧室で生活しながら潜水に備えるのです。

2-2.移動

加圧を終えたダイバーは、加圧した状態をたもったまま、専用の設備で海中へと向かいます。
このときの圧力は、実際に潜る水深の圧力よりも少しだけ高めに設定されているそうです。

2-3.作業

ダイバーたちが潜水作業をする水深に到着したら、設備から出て作業を始めます。
この際、全員が水中に出ることはありません。
飽和潜水が必要な水深まで潜ると、水温はかなり低下します。
さらに、呼吸ガスとして使用したヘリウムは熱伝導率がよいためにダイバーはより体温を奪われやすいのです。
そのため、ダイバーの潜水服の中には温水が循環していて体温の低下を防いでいます。
専用の設備の中に残ったダイバーはその温水を管理士ながら、万が一のときに備えて待機しているのです。

2-4.浮上

作業が終わったダイバーは、再び乗ってきた設備に戻りそれに乗って地上に帰ります。
しかし、加圧をしたままで急に地上に戻ると減圧症を発症する危険があるのです。
そこで、地上に戻ったダイバーは再び加圧室に入り、数日かけて減圧処理を行います。
こうして飽和潜水は終了するのです。
空気潜水のように「今日は天気がいいから潜ろう」というわけにはいきません。
入念な計画を立てて準備をしなければ実行できない潜水方法です。

3.飽和潜水の課題とは?

では最後に、飽和潜水の課題をご紹介します。
飽和潜水が行われるのは海難救助や海底油田の開発作業などですが、どのような問題点があるのでしょうか?

3-1.圧力の課題

前述したように、飽和潜水は時間をかけて加圧、減圧をしなければいけません。
そのため、ダイバーが日常生活を送れるような造りとなった加圧室が必要なのです。
現在、海上自衛隊の潜水艦救難艦「ちはや」のように、船に加圧室が整備されているところもあります。
しかし、その数は決して多くありません。
また、一度加圧や減圧を始めた人体を、急速に通常の気圧に戻した場合、健康に重大な影響が出るでしょう。
ですから、事故が必ずしも起きないとは限りません。
さらに、加圧や減圧をしていく過程でも健康に悪影響が出ることもあります。

3-2.呼吸の課題

人間は呼吸をしなければ生きていけません。
しかし、飽和潜水をすると呼吸そのものがとても難しくなるのです。
空気には窒素が含まれていますが、深海では窒素を吸うと窒素中毒を起こす可能性があります。
そのため、窒素の代わりにヘリウムが利用されていますが、ヘリウムは窒素に比べると熱伝導率が高く、可燃性もあるのです。
ですから、取り扱いには注意が必要で、体温が奪われ過ぎないように調節も大切になります。

3-3.温度の問題

水深が深くなるほど、日光は届きにくくなります。
そのため、どんな季節でも水温は冷たく、ダイバーは低体温症になる可能性があるのです。
ですから、前述したように温水を巡回させられる特殊なダイバースーツを着用しますが、万が一事故が起きた場合はすぐに命にかかわるでしょう。
そのため、飽和潜水には常に危険と隣り合わせなのです。
さらに、水温が低くなれば呼吸するだけで熱が奪われていきます。
そのための対策も重要になるのです。

4.おわりに

いかがでしたか?
今回は飽和潜水の原理や課題についてご説明しました。
理論上では、飽和潜水を行うと700mまでの浸水が可能だそうです。
しかし、現在の記録は450m、作業できた時間は1時間でした。
現在、飽和潜水を行う方々は、潜水士の資格を取ったうえで十分な経験を積んだ人です。
ですから、飽和潜水を行いたいという場合は、潜水士の資格を取得した後で飽和潜水を行っている企業などに就職しましょう。
また、航空機事故や船舶事故、さらに海底油田の事故などが起きれば飽和潜水を行う必要があるでしょう。
しかし、前述したように、加圧や減圧は一瞬で行うことはできません。
ですから、「今すぐ助けに行かないと間に合わない」という場合は、飽和潜水は使えないのです。
これから技術が進歩すれば、加圧や減圧に必要な時間は減ってくるかもしれません。
しかし、現在のところ飽和潜水を行うには、設備だけでなく潜水士としての知識と経験が必要です。

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